依存症に負けない大人の習慣化のコツ

エッセイ

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4.習慣化への恐怖症の利用方法 

 前のページでは、依存症を利用した習慣化の事例を紹介した。このページでは、恐怖症をうまく利用した習慣化の具体例を、私が経験した実例で説明してゆく。

事例1)禁煙の成功


 私は就職した24歳から喫煙するようになり、それから20年間、喫煙を続けた。1日約一箱、飲み会があればさらに一箱といった感じでタバコを毎日吸い続けた。会社の休憩時間や通勤の車の中など、吸えるタイミングでは必ず数本タバコを吸う状態だった。さらに飲み会ともなれば、10〜15分に1本くらいのペースでタバコを吸っていた。 

 健康のために、いつか禁煙しようと思っていたが、なかなか喫煙を止められずにいた。そんな私が、44歳のある日を境に全くタバコを吸わなくなった。
 
 そのきっかけは、ある3連休前の飲み会だった。翌日から連休ということもあり、朝方まで、お酒を飲み続けた。そして、大量のタバコを吸い続けた。その結果、飲み会の翌日は、深酒のせいでひどい二日酔いになってしまった。頭痛、吐き気、口の中に残るタバコの臭いでひどく気持ち悪い状態となり、全く動けない状態だった。

 そして、その次の日もまだ具合が悪い状態が続いて、結局二日酔いどころか三日酔いになってしまった。この2日間は気持ち悪くて、全くタバコを吸えなかった。
 
 そして3連休の最終日である三日目の朝、ようやく正常な状態に戻ることができた。そして、起きて普段通りにタバコを吸おうと、タバコを口にした瞬間、過去2日間の気持ち悪い状況が頭をよぎり、タバコを口から外してしまった。なんとなく、タバコを吸うと気持ち悪くなるような気がしてしまったのだ。
 
 それと同時に、もしかしたら、このままタバコを止められるのではないか思うようになった。その時を境に、タバコを吸いたくなったら、ひどい二日酔いの気持ち悪い状態を思い出すようにして、タバコを口に入れないように我慢した。 

 そんな活動を1ヶ月ほど続けたところ、ほとんどタバコを吸いたいという気持ちが無くなり、以降禁煙状態が根付くようになった。
 
 喫煙は、タバコに含まれるニコチンを摂取することにより脳が快楽を感じ、その快楽を繰り返し得ることで依存症として習慣化してしまうものだ。ニコチンへの依存は非常に強力で、簡単には摂取を止められない。 

 この事例ではニコチン摂取で得られる快楽を、ひどい二日酔いの気持ち悪さを喫煙で再び体験するという恐怖心が上回ることで、禁煙に成功したと言える。


 

実例2)ラーメン依存症からの脱却


 私はラーメンが好きで、夕食にラーメンを食べることが多かった。特に飲み会の締めには必ずラーメンを食べることを習慣としていた。ラーメンのスープには脂が多く含まれていて、食べ過ぎは体に良くないことはわかっていたが、どうしても止められない食習慣だった。

 しかし、ある事件がきっかけでこの習慣を止めることになった。それはある飲み会で、締めに豚骨ラーメンを食べて帰った翌日に起こった。

 翌日の早朝3時頃、急にお腹が痛くなり、起きてしまったのだ。最初は胃もたれかなと思い、胃腸薬を飲んで様子を見たが一向に痛みが引かず、どんな体勢を取っても痛みが楽にならない状態だった。しまいには、嘔吐までしてしまう始末で、結局病院の緊急外来に駆け込み、そのまま入院する事態になった。
 
 検査の結果、痛みの原因は胆石症の発作であることがわかった。胆石症は、消化液の胆汁を貯める胆嚢の中にできた石が、たまたま胆汁の出口を塞ぐことで、発作的な痛みが出る病気である。胆汁は脂類を摂取すると多く分泌されるので、もし胆嚢に石があると、脂濃いもの食べた数時間後に発作を起こす確率が高くなる。このケースもまさに脂たっぷりの豚骨ラーメンを食べた4時間後くらいに発作が起こっている。
 
 この時は、胆嚢内の石が動いてくれて、入院してすぐに、発作の痛みが嘘のように消えてしまった。結局、数日入院した後、医師に胆石の発作を防ぐため、ラーメンの食べ過ぎは控えるように釘を刺されて退院することになった。
 
 しかし、私はこの入院に懲りずにラーメンを食べ続けてしまった。それ以来、痛みの程度は入院時ほどではないが、月に1から2回の頻度で胆石の発作を起こし続けた。一旦発作が起きれば、胆嚢の石が動くまで、数時間は痛みに耐えなければならない。発作が起こるのは大概、遅い夕食でラーメンを食べたり、飲み会の締めにラーメンを食べた翌日の早朝である。

 さすが、繰り返し起こる発作の痛みに懲りて、退院から3ヶ月ほどして夜にラーメンを食べるのを止めた。今でもラーメンを年に数回食べるが、食べるのは昼だけで、食べる時もスープはなるべく飲まないようにしている。以来、胆石の発作の発生頻度は年に1回程度に抑えれるようになった。
 
 私はラーメンに対して依存状態にあった。このような食べ物に対する依存症は誰にでもあると思う。あなたもよく食べる好物を思い浮かべれば、依存症になっている食べ物が思い浮かぶのではないだろうか。ただし、好きな食べ物をよく食べること自体が悪いわけではない。食べ物の中にはラーメンに含まれる脂のように、摂りすぎると健康に良くないものがあるということだ。 

 この事例ではラーメンへの依存を、胆石症の発作の痛みに対する恐怖が止めてくれたと言える。